旅のはじまり、おわかれ

大好きで、大切で、本当にお世話になった方が旅立たれました。

この仕事をしていると、私の音楽を好きになってくださったことをきっかけに、ご縁をいただく方がいます。

その方は特別でした。

その方とは、まだ私が20代で、テーマパークでパフォーマンスをしたり、ロックを弾いたり、クラシックを弾いたり、自分の音を探していた頃に出会いました。

ある時、その方は私にこう言ってくださいました。

「君の音はなぁ、他とは違うんや。今はまだ君の中で決まらんかもしらんけど、それでも君の音がするんや。何をやってても君はきっと君でいられるから、安心して思ったようにしたらええ」

当時の私は、自分がどんな音楽家になりたいのか、自分の音とは何なのか、ずっと模索していました。

そんな中でいただいたその言葉は、今も私の心の支えになっています。

私のコンサートには必ず足を運んでくださり、
初めてのソロアルバムを作る時も、
「CDは出さなあかん」
と何度も背中を押してくださいました。

音楽家にとって、そうして支えてくださる方の存在は、家族とも友人とも少し違う、不思議で特別な存在です。


私は誰かのサポートを受けることに抵抗がある人間です。

何かをしていただくと、
「何を返せばいいんだろう」
と考えてしまいます。

だから最初は何度もお断りしました。

それでもその方は、
「CDを出さなあかん。君の音は形にしなあかん。
君の音がCDになって旅立っていくことが、僕の夢でもあるんや。叶えてほしい。
君は音楽をしてくれたら、それがお返しなんや」
と何度も言ってくださいました。

ちょうどその頃、プロデューサーの塩入さんとのご縁もあり、その方のご厚意をありがたくお受けすることになりました。

もちろん、できることは自分でという気持ちは変わりませんでしたが、余計な心配をせず、安心して音楽に集中できたことは間違いありません。

そうして初めてのアルバムが生まれ、そこから私の世界は大きく広がっていきました。

私の人生の節目には必ず寄り添ってくださりました。
結婚した時には、
「良かったなぁ、誰かと支え合うことできっとまた豊かな音になるなぁ」と。

出産した時には
「子供が親にしてくれるんやで。音楽も変わるのが楽しみやなぁ」
「母親になってやっぱり音が変わった。より深くなったなぁ。」と。


出会いから10年以上。
数年前、その方が体調を崩されていると聞きました。

初めの頃は、
「そんなに悪ないから、行けるコンサートを選んで行くわな〜」  
と笑っておっしゃっていました。

お顔を見られない日が増えても、
「ごめんなぁ〜、年には勝てんわ」
と明るくご連絡をくださいました。


けれど昨年、その方が患われていることを知りました。

涙が止まりませんでした。

辛くて、悲しくて、しばらく何も手につきませんでした。

仲の良い先輩に相談した時、
「歳をとるってそういうことなの。周りも歳をとるし、お世話になった方々もどんどんご年配になっていく。歳をとるって、悲しいことも増えていくってことなのよ」
と言われました。

その言葉を聞いて、少しずつ気持ちを立て直しました。


そしてそんな時に、昨年10月のソロ演奏会のお話をいただきました。

すぐにその方へ連絡しました。
「大きなコンサートが決まりました。私頑張るから、絶対良くなって聴きに来てくださいね」
そうお伝えしました。

そして当日。
なんとその方は会場へ来てくださいました。
変わらない優しい笑顔で、私の音楽を聴いてくださいました。

私はその姿を見て、きっと良くなっているんだと思いました。
でも今思えば、きっと無理をして来てくださっていたのだと思います。

その後も、お電話やメッセージでやり取りをさせていただきました。

「マシになったら行くからなぁ」
「ようなったら家族で遊びにおいで」
「配信をしてくれてるから音を聴けてええなぁ。ありがとう。せやけどジジイには難しくてコメントはできへんわ」
「6ヶ月以内にマシなタイミングで絶対行くから、コンサートはずっとやっといてや」

そう言ってくださいました。

だから私は、また会えると思っていました。

また音を聴いていただけると思っていました。

その日が来ることを疑いませんでした。

昨日、奥様からご連絡をいただきました。

旅立たれたことを知りました。

ご家族にとっては決して突然ではなかったのだと思います。

でも私にとっては。。。

また会えると思っていました。
また音を届けられると思っていました。
またあの優しい笑顔に背中を押していただけると思っていました。
ずっと、そのつもりでいました。


優しくて、懐が深くて、義理堅くて。

きっとたくさんの方に慕われ、愛されていた方だったと思います。

だからこそ、あと一度だけでも生の音を聴いていただきたかった。

昨年のリサイタルが最後になってしまったことが、今はとても寂しいです。

あの日、会場に来てくださったこと。
どれほど頑張ってくださっていたのだろうと思うと、胸がいっぱいになります。

会いたいです。
きっとこれからも私は客席に探してしまうでしょう。
あなたの面影。
あの帽子。
あの笑顔。

ありがとうございます。何もかも。
私の音を信じてくださったこと、
娘のように接してくださったこと、
背中をいつも押してくださったこと、
ずっと笑顔でいてくださったこと、
そこにいてくださったこと。

本当になにもかも、
ありがとうございました。

どうかこれからも、
その朗らかな笑顔で私の音を聴いていてください。

音を通じてあなたに会えることを、
これからも願っています。


あなたがそうして私にしてくださったように、
私もまた、音楽を通して誰かの背中を押せる人でありたいと思います。


音楽を通して芽生えたご縁、
これからも大切にしていきます。

私の音楽を通して出会うすべての人が、
幸せでありますように。

どうしてもこの気持ちをどこかに残しておきたくて、
2年振りにブログを書きました。